JCMクレジットの売却方法を比較!企業間取引と市場取引の違いと戦略的活用法

JCMクレジットの取引構造から具体的な売却戦略まで、実務担当者が知っておくべき情報を網羅的に解説します。2026年度からGX-ETSの本格稼働が予定される中、JCMクレジット需要は急速に拡大することが見込まれており、今こそ売却戦略を明確化すべき時期といえます。

JCMクレジット取引の基本構造と取引ルート

JCMクレジット取引は、JCM登録簿によって電子的に管理されており、すべてのクレジットには1トン単位の識別番号が割り振られています。JCM登録簿には国の承認を受けた法人用の保有口座と無効化口座が設置されており、プロジェクト参加者がクレジットの発行を受けると保有口座に識別番号が記録されます。取引が行われる際には、売り手の保有口座から識別番号が削除され、買い手の保有口座に同じ番号が記録される仕組みです。現在JCMクレジットは主に2つの方法で利用されています。第一に排出削減プロジェクトを実施した企業が自社の国内排出量を相殺するために内部で償却する方法、第二にプロジェクト開発者が直接別の企業に売却し購入企業が自社の排出量を相殺するために償却する方法です。JCM登録簿に口座を持つ企業間であれば追加料金なしで非公開取引が可能ですが、現時点ではJCMクレジットの公開取引プラットフォームは確立されておらず、JPXカーボンマーケットでも販売されていません。取引の基本構造として、JCMクレジットは財産的価値を有するものとして移転可能であり、会計上は無形固定資産または投資その他の資産として計上されます。転売を目的として購入する場合は棚卸資産として計上し、無効化時にはこれを費用として処理することになります。GX-ETSにおいてJCMクレジットは適格カーボンクレジットの一つとして位置づけられており、企業の自主目標達成のために活用可能です。

企業間取引(オフマーケット取引)の特徴と利点

企業間取引はオフマーケット取引とも呼ばれ、売り手と買い手が直接交渉を行い、価格や引渡条件、支払条件などを個別に決定する取引形態です。この方式の最大の特徴は取引の柔軟性にあります。クレジットの種類やプロジェクトの特性、削減効果の質、将来的な追加供給の可能性など、多様な要素を考慮した上で価格設定が可能です。特に大口取引では、長期供給契約を結ぶことで売り手は安定した収益を確保でき、買い手は将来的なクレジット需要を計画的に満たすことができます。また、企業間取引では取引相手を選択できるため、自社のサステナビリティ戦略と親和性の高いプロジェクトから創出されたクレジットを選んで購入することが可能です。例えば再生可能エネルギープロジェクトや森林保全プロジェクトなど、自社のブランドイメージと合致するクレジットを戦略的に調達できます。交渉過程で技術提携やビジネスパートナーシップの構築につながる可能性もあり、単なる金銭的取引を超えた価値創造が期待できます。一方で企業間取引には課題も存在します。最大の課題は価格形成の不透明性です。相対取引では市場価格の参照基準が明確でないため、適正価格の判断が難しく、交渉に多くの時間と労力を要します。また適切な取引相手を見つけるのが必ずしも容易ではなく、特に中小企業にとっては取引機会の探索自体が負担となります。

市場取引(オンマーケット取引)の仕組みと活用例

市場取引はオンマーケット取引とも呼ばれ、東京証券取引所のカーボンクレジット市場などの公開プラットフォームを通じて行われます。2023年10月に正式開始された東京証券取引所のカーボンクレジット市場は、これまで相対取引や政府入札が中心だったクレジット取引に透明性をもたらし、価格の見える化を実現しました。市場取引では毎日の取引価格が公表されるため、企業は市場での取引量や価格推移を参考にして売買方針をより具体的に検討できます。市場参加者からは価格シグナルとして一定の効果があるとの評価も得られています。市場取引の利点として、取引の迅速性が挙げられます。売買注文を出せば条件が合致した時点で自動的に約定するため、企業間交渉の手間が省けます。また市場での取引価格は公開されるため、適正価格の判断基準が明確になり、価格交渉における情報の非対称性が軽減されます。市場には創出者や実需家だけでなく、売買の仲介や流動性供給の役割を担う事業者も参加しており、取引の厚みが増すことで売買機会が拡大します。ただし現時点ではJCMクレジットは東京証券取引所のカーボンクレジット市場では取引されておらず、主に国内のJクレジットが対象となっています。しかし将来的にはJCMクレジットの市場流動性を高めるため、東京証券取引所での取引実施が検討されており、企業が参加しやすい環境づくりが進められています。

売却価格に影響する要因と市場動向

JCMクレジットの価格は多様な要因によって変動します。最も重要な要因は需要と供給のバランスです。2026年度からGX-ETSが本格稼働すると、大企業の参加が義務化され、目標未達成企業は適格カーボンクレジットの活用が必要となります。2026年度の排出量が約9.2億トンと見込まれ、そのうち約50パーセントが排出量取引制度の対象となり、排出量の5パーセントを上限にカーボンクレジットを利用可能と仮定すると、最大年間2300万トン程度のクレジット需要が生まれる可能性があります。一方、2024年10月末時点のJCMクレジットの累積発行量は約70万トンにとどまっており、需要と供給の大幅な乖離が予想されます。この需給ギャップはJCMクレジット価格の上昇圧力となります。政策や規制の変更も価格に大きな影響を与えます。温対法や省エネ法などの規制強化により企業のクレジット需要が増加すれば価格は上昇します。また国際的な気候変動対策の動向も重要で、パリ協定に基づく各国の排出削減目標の強化はクレジット需要を押し上げます。プロジェクトの種類や質も価格決定要因です。再生可能エネルギー由来や省エネ由来のクレジットは取引価格が高めとなる傾向があります。また炭素吸収除去分野のクレジットは、GX-ETSにおいて特別な位置づけを受ける可能性があり、価格プレミアムが期待されます。市場動向として注目すべきは民間JCMの拡大です。これまでのJCMは日本政府の補助金により実施される形が主流でしたが、近年は政府補助金なしに日本企業がJCMプロジェクトを主導する民間JCMへの移行が進んでおり、企業は資金負担の代わりにJCMクレジットを取得できる仕組みが整備されています。

企業が取るべき最適な売却戦略とは

企業の最適な売却戦略は、保有するクレジットの量、事業の性質、財務目標によって異なります。大量のクレジットを継続的に創出できる企業は、企業間取引で長期供給契約を結び、安定した収益基盤を構築する戦略が有効です。特にGX-ETS参画企業との直接契約により、相手企業の長期的なクレジット需要に応えることで、価格の安定性と取引の継続性を確保できます。中規模のクレジット保有企業は、企業間取引と市場取引を併用するハイブリッド戦略が適しています。基礎的な需要は長期契約で確保しつつ、市場価格が高騰した際には市場取引で売却することで収益を最大化できます。少量のクレジットを保有する企業や、市場参加のノウハウが不足する企業は、Jクレジットプロバイダーなどの仲介事業者を活用する方法も選択肢となります。仲介事業者は売却価格や方法について専門的なアドバイスを提供し、適切な買い手を見つける支援を行います。売却タイミングの戦略も重要です。GX-ETSの第1フェーズ終了時である2025年度末には、自主目標の達成判定が行われるため、目標未達成企業からのクレジット需要が集中し価格が上昇する可能性があります。また2026年度の本格稼働開始前後も需要が高まる時期と予想されます。長期的視点では、日本政府が2030年度までにJCMクレジットを累積1億トン程度確保する目標を掲げており、パートナー国の拡大や新しい方法論の整備が進んでいます。これらの施策によりJCMクレジットの供給量は増加する見込みですが、需要の伸びも大きいため、価格は中長期的に堅調に推移すると考えられます。

まとめ

JCMクレジットの売却方法には企業間取引と市場取引という二つの主要なルートがあり、それぞれに固有の利点があります。JCMクレジット市場は発展途上にありますが、東京証券取引所での取引実施検討など、市場インフラの整備が進められています。